日本と西洋の建築遺産保存を取り巻く環境を比較すると建築遺産に使用される材料と遺産を取り巻く自然環境に差異が見受けられる。本稿ではこれらの差異に注目して、日本で、西洋と比較して早い時期に、建築遺産において無形文化財の保存が行なわれるようになった理由を考察する。 日本では文化財保存の対象となっている建築遺産の多くが木造建築であるのに対して西洋では石造建築が主となっている。ここで比較対象としているのは両者に存在する建築物の材料ではなく、文化財保存の対象として保護されてきた建築物の材料である。これは日本で近世に至るまで木造建築の文化が続いて来た一方で、西洋では、現代の建築遺産保存の概念が醸成された 19 世紀後半には木造建築の文化が廃れて石造建築が主流になっていたからであると考えられる。木材と石材を比較すると石材のほうがカビ、火災、害虫などにより侵食されづらい。適切な方法で材料を利用することで木造建築もそのような侵食に強いものとなるが、木材と石材を材料そのものとして比較した時に前述の違いが認められるとすると、石造建築が主流の西洋の方が比較的容易に、複雑な建築技能なしに、保存に適した建築物を建てることができると考えた。 次に日本では大部分の地域ーその内には建築遺産が残る場所も含むーで地震が多く発生するが、西洋では地中海沿岸地域などの例外はあるが、地震の発生が少ない地域が多い。つまり日本では地震という時期の予測できない減少により、急に建築遺産が失われるという場合が多いということである。日本の木造建築の耐震性は評価されるところであるが、それは地震災害に強いということを必ずしも表しているわけではなく、地震によって生ずる火災、つまり多くの地点で一斉に発生する火災によっては容易に焼失しうることが知られている。 [1] 以上より、木造建築が主流で、地震の多い日本では建築物、建築遺産が造立に複雑な技法が必要で、かつある日、突然に災害によって失われうるものと認識されていたと考えた。そしてその為、遺産の保存には普段から建築材料だけでなく、建築手法やノウハウなどを継承する必要があり、無形文化財の保護の概念が醸成されていったと考えた。 参考文献 立命館大学 文化遺産防災学「ことはじめ」篇 出版委員会 . (2008). 文化遺産防災学「こ...