本稿ではルイ・パスツールが『自然発生説の検討』の中で紹介した「白鳥の首のフラスコ」実験[1]を考察した上でどのように自然発生説が否定されるのか彼の考えをまとめた。
「白鳥の首のフラスコ」実験[1]
フランスの生化学者、ルイ・パスツールが考案した実験。
実験概要
スープを入れた丸底フラスコとスープを入れた後に頸を引き延ばして折り曲げたフラスコを用意して、フラスコを放置した際のスープの変化を比べる。
実験手順
- 2つのフラスコにスープを入れる。
- 一方のフラスコの頸を熱して引き伸ばし、外部から物体が流入しないように2回折り曲げる。ただし頸は解放されていて気体は流入できる。(図1参照)
- 次に2つのフラスコを熱して中の液体(スープ)を煮沸させる。フラスコ内の空気がすべて水蒸気で置換されるまで煮沸を続ける。
- 煮沸をやめて2つのフラスコを放置する。
得られる結果
頸を引き延ばして湾曲させたフラスコではスープに変化が見られないが、もう一方のフラスコではスープ内に微生物が発生してスープが腐り、液体に濁りが見られる。
図1 湾曲させたフラスコ[2]
自然発生説の否定
自然発生説とは紀元前4世紀にアリストテレスにより提唱された。生物は親が存在しない場合でも必要な栄養分が揃った物質のみあれば誕生することがあるとするものである。特にダニ、ウジなどの昆虫または微生物は腐敗したゴミや肉の周りで見つかることが多いことからこのような物質から自然発生しているのではないかと考えられた。
パスツールは、前述のような昆虫や微生物は空気中に浮遊する微粒子に起源があると考え、「白鳥の首フラスコ」実験を行った。実験でフラスコの煮沸が完了した段階ではフラスコに入ったスープ内の微生物は死滅しており、フラスコ内の気体は水蒸気で満たされている。自然発生説が正しければ両方のフラスコでスープから微生物が発生してスープが腐らなければならないが、湾曲させたフラスコでは微生物の発生が確認できないので矛盾する。またこの対照実験の条件を比較すると、湾曲させなかったフラスコではスープに外部から物体が流入することで微生物が発生していると考えることができる。つまり自然発生すると考えられていた小さな昆虫や微生物は微粒子として空気中を漂っている昆虫、微生物の受精卵、親もしくはその生物自身が起源となっていると考えることができる。
参考文献
- 日本放送協会. NHK for School 「パスツールの実験」. https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005300448_00000
- Louis Pasteur. (1862). Mémoire sur les corpuscules organisés qui existent dans l’atmosphère. Examen de la doctrine des générations spontanées. Imprimerie de Mallet-Bachelier, Paris. (ルイ・パスツール. 山口清三郎(訳)(1948). 自然発生説の検討 北隆館)第6章 第25図